2、3日前のこと
カンヌ映画祭に参加していた日本人俳優と監督が、
レッドカーペットの階段で、
共に参加していた女優さんをエスコートしなかったことで非難轟々、
というネットニュースを見ました。

そのニュースにはこうあります。

◯◯(俳優名)さんが「第70回国際映画祭」の
レッドカーペットで見せた振る舞いが、
国内のインターネット上で「ドン引き」などと不興をかっている。

問題視されたのは、◯◯さんが女優の△△さんを「エスコート」せずに、
ポケットに手を突っ込みながら階段を先に登っていく姿だ。」
(J-CASTニュースより一部抜粋。文中◯◯と△△はニュースでは実名。)

何度か国際的な映画祭にも顔を出した名監督
同じような振る舞いで名前は上がっていましたが、
見出しなどで名前が目立っていたのは、俳優さんのほうでした。

この俳優さんは、「日本でも有数のかっこいい男性」として長らく君臨していた人。
今は一時ほどの勢いはないようですが、
日本で知らない人はいない有名人で、
ファッションなり振る舞いにも何か独自の美学を感じさせる人です。

最近、バッシング報道されているところもよく見るので
「本当にそんなにひどい振る舞いだったのかな?」と
仕事の興味半分、物見高さ半分で、私もその時の映像を見てみました。
(カンヌ映画祭のオフィシャルページがほとんどの参加チームのレッドカーペット映像を公開していますので、探すのは簡単でした)

ああ、なるほど。
これは見た人はがっかりしてしまうな、と思いました。
残念ですが「エスコート」は確かにできていなかったからです。

一方的な見方はダメだけど

映像の中では
晴れ着に身を包んだ若い女優さんと
タキシードを身につけた俳優さん、監督さんの3人。
振袖で少し歩きにくそうにしている女優さんを尻目に
◯◯さんと監督さんの男性陣は
スタスタと先に歩いているように見えました。

あくまで映像で見た範囲内ですが
先を行く男性陣が、
少しずつ段を登る女優さんを気遣う様子や振り返る様子はなく
それぞれのペース壇上に上がり、ただ手を振っていました。

映像は編集されていて、
カットされた中に気遣う様子、振り返る様子などが
含まれていたかもしれませんので
これは一方的な見方になるかもしれません。

実際、後から出た報道だと
着物を着て人形のように可愛いかった女優さんの単独ショットを撮りたい報道陣が
女優さん一人で歩くように注文をつけたとか、
逆に男性陣が写真に入らないように気を利かせてわざと離れていたという説もあります。

それに女優さんも、その映画の中では主演ですが、
◯◯さんという俳優や、名監督から比べると年齢も経験もグッと下の立場です。
それを考え、自ら控えめについて行くようにしたかもしれません。

ただ、あくまで見る限りは
気ままな男性陣の振る舞いは
子供っぽく思いやりがないように見え、
また慣れない華やかな舞台でわざと粋がっているように見えてしまいました。

また、一人後からついて行かざるを得なかった(そう見えた)
女優の様子は
「大事にされていない、お気の毒」という感情をこちらに抱かせるものでした。

どちらにしろ、良い印象は抱けず、作品のイメージに貢献しているとも思えませんでした。

それに比べると、他の参加チームでは
男性陣が主演女優を先に歩かせ、
それを守るようにして後からついて行ったり、
ドレスの裾を気にする女性に手を貸したりするところが
多く見られたのは確かです。

それがいかにも、この場に相応しく華やかな印象で「やっぱりこうじゃなきゃ」と思わせました

これを受けて、ネット上では
「日本人として恥ずかしい」「ダサい」
「世界レベルのマナーも知らない」
という意見が噴出したところから「ドン引き」報道が出たわけです。

 

◯◯さんには
「そういうことができる人のはず」という期待があり
「国際部隊だから、日本代表としてしっかりしてほしかった」
という同胞意識も手伝って、厳しい声が出たのでしょう。

しかし、この話題はあなたに無縁ではありません。
「この人にはこれくらいできてほしい」という期待
「私たちを代表するのだから、立派でいて!」という願い
あなたもどこかで裏切って「ドン引き」されているとも限らないからです。

目立つ立場や人の上に立つ立場であるなら
「レディファースト」「エスコート」は
外しては通れません。

でも、私たち日本人の多くは、どうもそこをクリアしきれないところがあります。

日本人が「自然にできない」理由

国際的なマナーとして「プロトコル」と呼ばれるものがあります。
欧米的な感覚がベースにはなっているので、
時と場合によって自分の国のマナーが優先されるべき時も当然あります。
ただ、プロトコルの根底にある、相手を常に尊重する精神と、
それをきちんと態度や振る舞いで表現するという考え方は
世界共通で大切なものです。

その中に受け継がれているのが「レディファースト」の精神。
女性に限らず、自分より弱いものにこそ丁重に接し
大切に扱う、というルールです。

 

にも書きましたが、この精神と振る舞いは
紳士が身につけておくべき当たり前のこと。
国際的には、いい大人だったら「できて当然」の感覚であるわけです。
当たり前のことなので、日頃から相手を気遣う態度や
相手を優先するような動作も
あまり考えることなくできているわけです。

では、日本ではどうかというと、
やはり自然にできる人はまだまだ少なく思えます。

特別感がありすぎる

理由の一つは「偏見」と「照れ」。
「レディファースト」や「エスコート」には
タキシードなどに身を包み、華麗に女性をリードする
…そんなイメージはないでしょうか?

「キザな感じ」や「すごく上流な場面」と特別感を持つ人が多く
「自分には関係ない」「できるわけない」と
最初から否定ムードの方は少なくありません。

確かに、本当に洗練されたスマートなエスコートというと
けっこう難易度は高め。

知識と場数と度胸が必要だと思います、
でも、通常求められるのは、そのようなものではありません。

「ここにいて、あなたを手助けできるようにしていますよ」
「あなたに敬意を抱いていますよ」
「危険な目に遭わないよう守りますから安心してください」

相手に対して、そういう気持ちが伝わる態度や動作があればいいのです。
(言葉にすると大げさですが、心づもりとして、ですね)

粗雑な態度はカッコよくない

もう一つの理由に「男らしさの勘違い」があります。
長く男尊女卑の価値観を引きずってきた日本では
「女性のご機嫌をとるなんてみっともない」
意識下でそう感じ、
無関心を装ったりわざと粗雑な態度をとることで
男らしさを表現しようとする人はまだ多いようです。

でも「気遣う」と「ご機嫌をとる」とは違うことですし
威張るよりは、周囲に目を配る優しい態度でいた方が、
むしろ「余裕」を周囲に感じさせることができます。

受け手側の女性にも同じところが

男性だけでなく、

女性にも男性と同じような「偏見」と「照れ」があり、
「私なんかには関係ない世界」
「えー、かえって恥ずかしい」
と自ら丁寧な扱いを避けてしまうこともあるようです。

そして、理解ある女性として「男らしさの勘違い」を許容してしまうところがあります。

日本女性の奥ゆかしさはとても素敵ですが
「自分を大切にしてもらうこと」も、
もっと大切にしていいと思います。

手をとるだけがエスコートではない

さて、カンヌ映画祭の映像では

だいたい女優が先を行き、
男性陣は女優を守るように、その後から段を上がっていました。

女優さんも、主演・助演で位置や上がって行くタイミングが違います。
つまり序列はありますので、
なんとなくその序列に従った男女の組み合わせになっています。

しかし、周囲の男性は、絶えず複数の女性を気遣います。
主演だけ大切にすることはありません。

女性が一人置いてきぼりにされないように
歩むスピードを緩めたり、
こちらへ、というふうに上の方を手で指し示したりして
それぞれ「大切に扱っている」という態度は崩しません。

そして、そういった一連の動作は気負うことなく、とても自然です、

上でも言いましたが、「エスコート」というと、
何か大げさなイメージを持つ人が多いようです。

それに、
必ず男性が女性の手を取ったり、腰のあたりを支えるなどの
決まった動きをしなければならないように考えがちですが、
それはケースバイケースなのです
(そう親しくもないのに、相手の背や腰にタッチするのは
 逆に失礼な場合も多いのでご用心ください)

相手に暖かい視線を向けたり
相手に何かあったら手を貸せるような距離感で見守るのも
エスコートのうちです。

 

互いの調和と思いやりが空間を上質にする

こういった振る舞いができる人たちが素敵だな、と思うのは
それが周囲の雰囲気を高めるからです。

相手への気遣いや敬意がきちんと伝わることで
まず、その相手はのびのびと安心して振る舞えます。

レッドカーペットでは、
女優は取材カメラのためにポーズを時々とったりして、
堂々と美しく振る舞いつつ
時折、自分を立ててくれる男性に
信頼や感謝の表情を向けて、お返しをしていました。

女性はより華やかに美しく見えるし、
男性は信頼や感謝をその身に引き受けることで
とても素敵に堂々と見える。

そして、どちらもとても自然で無理がありません

そんな美しい調和のある光景が多くのチームに見られました。

カンヌがあれだけ素敵な場所なのは
華やかなスポットライトやドレスとともに、そんな光景が多く見られる場所だからでしょう。

そんな光景を生み出せる人こそ一流なのです。

相手への気遣いや敬意はまずお互いに伝わり、
お互いに安心感や感謝を与えます。

それがやがて周囲にも伝搬し、
全体的に心地よい空気感を作ります。
その場所や場面自体も華やかな美しいものとなるのです。

私は、そういう空気感が醸し出せるようになりたいですし
多くの人に、自分の雰囲気が周りを素敵にできる、その可能性を試してほしいと思います。

男性、女性、ともに変な照れや偏見、勘違いをなくして、
自然に相手への思いやりや敬意を表せるようにしたいですね。

追伸:もう一つ素敵な光景

同じカンヌの映像を見ていて、印象的なシーンがありました。

それは、やはりレッドカーペット。

とても背が高いゴージャスなロングドレスの女優と
とても小柄な白髪のタキシード姿の男性。

身長差にして30cmくらいあるように見えましたが、
男性はきちんと女性の手を取りエスコート。
女性も男性に手を取られながらしずしずと階段を登って行きました。

登りながら、何か楽しそうに会話していましたが
時折はお高いに思いやりのある視線を向け、
女性は、その老人とも言える男性が立派にエスコートの役を果たせるよう
歩調を合わせて、気遣っていました。

そして一番上に登った時、二人は報道陣の方に振り返り
互いに手を取り合って、もう一夫の手をにこやかに振りました。

それが終わると、今度は仲良く腕を組み、
その実、女性が男性を支えるようにしながら
二人楽しそうに笑って、奥へ消えて行きました。

なにかいいですよね。こういうの。